書く歩く(第1回 命の恩人 ― ①)
第1回 命の恩人 ― ①

言語表現で身過ぎ世過ぎしている。商品項目は小説やエッセイを書いたり、大学やカルチャーセンターで文章の書き方を教えたりといったところになる。そのなかに執筆アドバイザーという項目があって、これは聞きなれない職業かもしれない。かんたんに言ってしまうと、本を出したいと思うのだけれど原稿を書き上げる自信がない方、あるいは、書いている原稿の内容をレベルアップしたいと思う方にアドバイスと文章の添削を行う業務である。
かつて植村直己氏が、結婚の許しを得るために妻となるひとの実家を訪ねた際、職業を問われ、「冒険家」とこたえて呆然とされたといったことを、なにかの本で読んだおぼえがある。まだ認知されていなかったこの職業も、冒険家=植村直己の代名詞となったように、執筆アドバイザー=上野歩の代名詞となる可能性がなきにしもあらずではないか。
さて、現在進行中の方も含めてこれまで150人ほどの方の原稿執筆にかかわってきたことになる。
どの方も執筆についてはアマチュアだが、それぞれご職業をお持ちだ。そのお仕事もまたさまざまである。病院長、看護師、主婦、教師、実業家、洋裁講師、銀行マン、女子中学生、塾経営者、釣り師、発明家、司会者、ケアマネージャー、占い師、サイコセラピスト、僧侶、消防士、ショーパブのダンサー……ほんとうにさまざまな職種と趣味をお持ちの方々に出会うことができた。そうして、執筆のアドバイスをさせていただく一方で、各分野においてはプロ中のプロであるみなさんに多くのことを学ばせていただいた。それらは僕の心の財産である。
と、同時に、なかには僕の命を救っていただくような大恩人との出会いもあったのである。
話は順を追ってしなければならない。まずは2年まえにさかのぼるとしよう。
(つづく)