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書く歩く(第12回 向田邦子の『あ・うん』)


第12回 向田邦子の『あ・うん』

 前回、ことし(‘09年)が、松本清張と太宰治の生誕100年であることを書いた。そして、ことしは向田邦子の生誕80年でもあるのだ。文芸社の情報誌『ことのは』で、『一筆一歩』というコラムを連載しており、最新号(第7号)に、向田が遺した唯一の長編小説『あ・うん』について思うところを書いてみた。ご一読いただければ幸いだが、この『書く歩く』でも、同作品についてもうすこしふれてみたいと思う。
『あ・うん』は、当初、NHKのドラマとして生み出された作品であった。つまり、向田は、テレビドラマの脚本を書き、自らこれをノベライゼーションしたわけだ。
 軍需景気で羽振りのいい金属会社の経営者・門倉と、勤め人としてつつましく暮らす水田の友情、そして門倉が水田の細君によせるひそやかな思慕が『あ・うん』の縦糸となる。オリジナル版では、門倉を杉浦直樹、水田をフランキー堺、水田の妻・たみを吉村実子が演じている。めっちゃシブいキャスティングである。シブすぎて、‘80年の初放送時、高校生だった僕は熱心な視聴者ではなかった。
 向田の死後、小説『あ・うん』を大学生の僕は手にしている。面白く読んだけれど、この作品を深く理解するには、読者として若すぎるかな、といった感想を抱いた。
 そして‘89年の映画化で、ふたたび『あ・うん』と出会うのだ。この時の門倉は高倉健、水田が坂東英二、たみは富司純子である。原作のエピソードを要領よくまとめた佳品であるが、向田色はあまり感じられなかった。華やかすぎるのである。向田作品には、やはりテレビ画面というスケールがよく似合う。引き画ではなくて、アップこそが向田ドラマなのだろう。
 だが、それにも増して、20代後半になった僕は、映画『あ・うん』が好きだった。きっとすこしはおとなになったということだろうか。ところが、一緒に観た父はお気に召さなかったようだ。「アクションスターの高倉健がひとの女房に惚れておろおろするところなんて見たくない」と言うのだ。いまとなっては昭和一桁の亡父の、これも味わいある映画評かもしれない。


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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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