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書く歩く(第15回 ヒーロー ― ①)


第15回 ヒーロー ― ①

 小説を読んで、映画やテレビドラマを観て、そこに自分のヒーロー像を見つけて憧れる。かくありたいと思う。誰しも経験のあることだろう。
 日本映画最高峰の呼び声高い黒澤明監督の『七人の侍』(‘54年)をはじめて観たのは、中学1年生の時のリバイバル上映でだった。「この映画は観ておくべき」とする父親に連れられて行ったのだが、正直、乗り気ではなかった。なにしろ古いモノクロの時代劇である。
 ところが、いまはなき浅草東宝のダムのように巨大な湾曲したスクリーン上に展開されるその映像世界にド胆を抜かれた。きれいに月代(さかやき)を剃ったちょんまげに、ぴんとした裃(かみしも)を身につけた侍や、きらびやかな着流しの旗本が闊歩する歌舞伎みたいな時代劇は、そこには存在しなかった。登場してくる浪人も、農民も薄汚れてぼろのようなものをまとっている。三船敏郎にいたっては、ふんどし一丁に鎧をつけた半裸のような格好で、お尻をむき出しにして駈けまわっている。
 野武士の襲撃から村を守るために農民が侍を雇うストーリーなのだけれど、その7人の侍を集めるくだりを丁寧に描く、上映時間をまったく無視したような(途中で休憩が入る)悠々たる話の運びにもびっくりした。
 そうしてなにより驚いたのが、主人公が死んでしまうことだった。当時のテレビ時代劇といったら、三船の『荒野の素浪人』にしても、萬屋錦之介の『破れ傘刀舟悪人狩り』にしても、毎週30人くらいの敵をひとりで叩き斬って、主人公はかすり傷ひとつ負わないというのがパターンである(娯楽時代劇はいまもそうか)。
 ところが、『七人の侍』においては、主人公の侍らも無事ではいられない。7人のうちのひとり千秋実は、物語の半ばであっけなく種子島(火縄銃)の凶弾に倒れてしまう。しかも遠景で。これにはうなったよ。だって主人公がだぜ、画面の向こうのほうで、ぱたりと倒れて名もなき死を遂げてしまうのだから。
(つづく)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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