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書く歩く(第16回 ヒーロー ― ②)


第16回 ヒーロー ― ②

 侍のひとり千秋実の死がロングショットになったのは、焼き討ちした野武士の根城の炎の勢いがあまりに激しくて、マルチカムで撮っていたアップのカメラが壊れてしまったからだと、なにかで読んだように記憶している。だが、そうした負の要素もプラスの効果に転じさせてしまうのが名作が有するパワーというものであろう。
 さて、この『七人の侍』、中学生で出会って以来、繰り返し何度も観てきた。そして、10代、20代、30代、40代と観る側の僕の立場がかわるにしたがい、侍7人それぞれに寄せる想いもまたかわっていった。最初は、宮口精二演じるいちばん腕の立つ侍に憧れた。痩身で無口でストイック、ほんとうの武士とはこういうものだろうと少年ウエノに思わせた。それは劇中、半人前扱いされる若い侍の木村功をして、「あなたは素晴らしいひとです」と純真な憧憬とともに言わしめた感情と似ていたかもしれない。
 それが自分が齢を重ねるごとに、7人のリーダーである初老の侍(志村喬)の持つ深さと諦念にますます惹かれてゆくこととなった。

 さて、『七人の侍』をはじめて見たおなじく中学生のころ、ヒーローと映ったひとりの男性がいた。それは、ホームドラマのなかのいちサラリーマンだった。
 山田太一脚本による『岸辺のアルバム』に当初、電話の声だけで現れる竹脇無我は、レコード会社でクラシックを担当する課の課長代理である。好きな仕事に就いているようだが、しゃかりきでない風情がまずいい。電話の声で登場してくるのは平凡な人妻の八千草薫を口説こうとする手口で、後にこのふたりは不倫関係におちいる。
 いや、誤解しないでいただきたいのだが、僕が憧れたのは人妻と浮気をすることではない。正義とも、あながち悪ともいえないこのサラリーマンの姿に、当時、勧善懲悪と、よきお父さん像ばかりが映し出されるテレビジョンに、新鮮なキャラクターを見る思いがしたのだ。しかし、そうした感想を抱く中学生の未来がそうそう明るいものであるはずもなかった。
(『ヒーロー』―おわり―)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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