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書く歩く(第19回 抒情という装置 ― ②)


第19回 抒情という装置 ― ②

『ティファニーで朝食を』がそうである。
 トルーマン・カポーティの原作には、主人公がティファニー宝石店で朝食を食べる場面はない。
 それなのに映画化されると、ヘンリー・マンシーニのあの素晴らしいテーマ曲『ムーン・リバー』とともに朝まだきのマンハッタン、ジバンシィの黒いドレスに身を包み、大きなサングラスをかけたオードリー・ヘプバーンがティファニーのショーウインドーをのぞきつつデニッシュをかじり、持ち帰り用のマグに入った(おそらく)コーヒーを飲んでいるシーンで幕を開ける。これは映画的文法というものかもしれない。

 さて、『砂の器』である。
 僕が小学生だった頃、銭湯(風呂はあったが、家内工業の町工場を営んでいた父が大きな湯船を好んだため、家で沸かすことがすくなかった)で、『砂の器』のポスターを見た時、戦争映画とカンちがいした。
 ぼろのようなものをまとった2人の男が砂浜を行く後ろ姿の写真だけで、思えば情報量のすくない、なおかつ色彩が乏しい、にもかかわらず印象的なポスターだった。
 僕は写真の彼らが身につけている着衣から帝国陸軍の兵隊を連想した。食料が欠乏し、砂の器のような欠けた食器をつかう、食うや食わずの戦場体験が描かれた映画だろうと想像したのである。
 ところが、ポスターの2人はひどく汚れていたが軍服ではなく遍路姿だったのだ。ゲートルに見えたのは脚絆(きゃはん)だったわけだ。そうして、2人のうち一方は、じつは少年であった。
『砂の器』は“宿命”のために殺人を犯した男の過去を追う物語だったのである。
(つづく)
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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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