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書く歩く(第20回 抒情という装置 ― ③)


第20回 抒情という装置 ― ③

 国鉄蒲田駅の電車区で身元不明の男性の死体が見つかる。
 この殺害現場のシーンはかなり生々しい。操車場の暗闇に、警察の鑑識班が撮影するカメラのフラッシュによって、線路上に倒れている遺体や、殴打(おうだ)された顔面の血糊をガーゼで採取したりしている模様が、ほんの一瞬だけ浮かび上がる。はっきりと映し出されないぶん、よけいに臨場感がある。
 男性は殺害される直前、駅近くのスナックで飲酒しており、いっしょにいた若い男の客に向かって、「カメダはあいかわらずだ」といったようなことを東北訛りで話していたらしい。
 捜査を担当する警視庁のベテラン刑事(丹波哲郎)と所轄署の若い刑事(森田健作)は、わずかな手がかりを頼りに、真夏の日本列島のあちこちに足を運ぶ。この2人の姿がいい。
「カメダ」を秋田県の羽後亀田と推定、両刑事は夜行で赴く。炎天下の駅に降り立った森田刑事の開口一番は、「メシどうします?」である。丹波刑事も、「あそこにしよう」と大衆食堂を顎で示す。地元の警察署に顔を出そうでも、聞き込みに歩いてみようでもなく、まずはメシ――じつに人間的ではないか。2人はそこで、朝昼兼帯らしい丼物をかっ込む。丹波刑事は、森田刑事の食欲と夜行列車でも平気で熟睡できる若さにつくづく感心している。
 結局ここでの捜査は空振りに終わり、帰りの列車内で夕飯の駅弁を広げる段になると、「ビールでも飲もう」と丹波刑事が森田刑事に提案。2人は食堂車に移る。
 食後の茶を啜りつつ、「いや、ぜいたくな旅をさせてもらったよ」と、自嘲気味につぶやく丹波刑事。

 やがて、丹波刑事は国立国語研究所を訪ね、出雲地方でも東北弁に似た方言がつかわれていることを知り、「カメダ」が「亀嵩(かめだけ)」であることをつきとめる。東北弁の特徴である、語尾がはっきりしない発音では、「カメダケ」が「カメダ」に聞こえるというわけだ。
(つづく)
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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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