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書く歩く(第23回 抒情という装置 ― ⑥)


第23回 抒情という装置 ― ⑥

 映画『砂の器』の背景となる昭和46年は、大阪で開催された万国博覧会の翌年にあたる。脚本を担当した山田洋次は、自らが監督した『家族』(’70年)で、九州の片田舎から北海道の開拓村に移り住むために列島を縦断する5人家族の姿を描いている。途上、わずかな時間を万博見物にあてるのだが、その際、笠智衆演じる老爺はエスカレータに慣れていないらしく、息子夫婦に支えられやっとこれに足を乗せるのが印象的だった。
 東京までくると、大都会に慣れていない夫婦は、ひきつけを起こした幼い娘を手をこまねく間に死なせてしまう。やっと北海道に到着した晩には、疲れがたたった老爺が眠るように息を引き取る。まだまだ「旅行」は「旅」であり、弱い者には過酷だった時代であることがわかる。
 もちろん、都会と田舎の情報量の差は歴然としている。そうして閉鎖的な環境のなかで仄暗(ほのぐら)い偏見と差別が生まれる。

 世間の注目を集める新進気鋭の作曲家(加藤剛)のもとに、なんのまえぶれもなく過去を届けにやってきた訪問者。作曲家はけっして消えることのない“宿命”に慄(おのの)き……
“宿命”によって殺人を犯した男を“職務”として追いつめる刑事。映画『砂の器』のクライマックスは、警視庁(筒型の搭のある旧庁舎で、ドーム内部のガラス装飾された見上げ部分も映っている)の合同捜査会議で、刑事が語る犯人の過去と、発表会で作曲した交響曲『宿命』を自ら指揮しピアノ演奏する犯人の姿がカットバックで描かれる。
 交響曲にオーバーラップする巡礼姿の父と子。この道行きの一場面が、少年ウエノが銭湯で見たポスターになっているわけである。
 ひもじく、過酷な、しいたげられた父子の旅路を、美しい日本の風景が彩る。白い霧のかかる山並、暗い波が打ちよせる日本海、吹雪の漁村、見渡す限りの雪原のなかにぽつんとある墓地、うららかな陽のさす梅林、しのつく雨、青々とした田園……ここでもズームバックがつかわれ、風景のなかを歩く人物の画は、雄大な叙事詩となってスクリーンいっぱいに展開される。
(つづく)


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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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