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書く歩く(第24回 抒情という装置 ― ⑦)


第24回 抒情という装置 ― ⑦

 原作では、

「本浦千代吉は、発病以後、流浪(るろう)の旅をつづけておりましたが、おそらく、これは自己の業病(ごうびょう)をなおすために、信仰をかねて遍路姿で放浪していたことと考えられます。」
(『砂の器(下)』新潮文庫)

 という文庫本で2行の刑事の台詞を、オーケストラ音楽と日本の四季を追った映像で描ききったことで、映画『砂の器』は小説以上に原作そのものとなった。
 このために、小説では、犯人は前衛作曲家であるが、映画化とともにピアニスト兼作曲家に置き換えられた。以後『砂の器』は、田村正和(犯人)VS,仲代達也(刑事)、中居正広(犯人)VS,渡辺謙(刑事)などの顔合わせで数度にわたってテレビドラマ化されている。すべてキャラクターは、犯人が優男ふうの二枚目であるのに対して、刑事は叩き上げといった感じの庶民派に設定されている。
 また、犯人が映画版にならってピアニスト兼作曲家という設定になっているのは、当然のこと交響曲にのせて父子が巡礼する姿をオーバーラップさせるというクライマックスを演出したいがためである。すなわち、繰り返し映像化される『砂の器』は、’74年の映画版こそが原作となったわけだ。

 僕が映画『砂の器』をはじめて鑑賞したのは、銭湯に貼られていたポスターを目撃してから5年ほどたった高校生の時だった。
 中野にあった名画座(2本立て450円が学割400円だった)で、『竹山ひとり旅』(’77年)と2本立てであった。
 放浪芸人を自称する津軽三味線の名人・高橋竹山(林隆三・演)の伝記映画が併映となったのは、竹山氏と『砂の器』の巡礼父子とに共通する“放浪”というキーワードによって組まれたプログラムと思われる。
(つづく)
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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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