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書く歩く(第37回 『見える人−①』)


第37回 『見える人−①』

 四国にお住まいの40歳代の女性で、Kさんとしておこう。かつてリアリストで内省的だったKさんは、20代の頃、ニュージーランドに語学留学するが、そこでの体験が彼女を一変させた。日本語という言葉の通じ合う場所から、一転、言葉の通じない空間に投げ出されたことで、人とコミュニケーションをとることの大切さを痛感した。相手の気持ちを理解すること、自分の気持ちを伝えること。人に対する強い興味を持ったのだった。
 しかし同時に、人や物から眼に見えない情報が噴出していることに気がつく。帰国後、それはさらに激しくなり、彼女を悩ませた。見たくないものが見える、感じる、聞こえる、におう……日常生活に支障をきたすほどだったという。いわば、それはKさんの中に潜んでいた生来持つ能力の発露だった。
 その能力をコントロールする術を知った彼女は今、多くの人々の相談を受けるようになっている。

 先日、そのKさんとお会いする機会があった。僕は、どちらかというと、あまりこのテのことは信用しないほうである。朝の情報番組の占いコーナーなんかも見ない。
 Kさんに言われるままに、僕はごく軽い気持ちで名刺の裏側に本名を書き、生年月日を伝えた。
 Kさんは僕が書いた名前を見ていた。Kさんの前には水晶玉もなく、呪文も唱えなかった。僕が書いた名前も、凝視するというより、さりげなく眺めているといったふうだった。その時、奇妙なことが起こった。なにか電子音のようなものが微かに聞こえたのだ。それは、イヤホンから漏れ聞こえてくる音楽のような感じだった。だが、不快ではなった。
「曾(ひい)お婆さまの名前はなんですか?」
 突然、Kさんにそう問いかけられた。
 僕には応えることができなかった。曾祖母の名前を訊かれて、即答できる人がどれほどいるだろう?
「ウエノさんにはお母さま方の曾お婆さまがついていて、その方が、野球の小説を書くと良いと言っています」
 その言葉に、僕は驚愕した。
(つづく)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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