書く歩く(第39回 『見える人−③』)
第39回 『見える人−③』

電話で話した伯母は、曾祖母の葬儀が、伯母の息子(つまり僕の従兄弟)の小学校の入学式と重なっていたことを覚えていた。
その従兄弟は、僕より6歳年長である。学齢に達するのが6歳だから……では、曾祖母が生きていた頃、僕は生まれていなかったことになるではないか!
一瞬、背筋を冷たいものが走った。
僕の誕生日は5月である。つまり、4月に曾祖母の葬儀があって、その後入れ替わるように出生したことになる。
では、あの母の生家の2階で会った曾祖母は……? あれは、僕が作った記憶だったのか、あるいは、この世の人ではない姿ということになる。
僕は、四国のKさんに電話して事情を話してみた。
「ウエノさんがお会いになられたのは、亡くなった曾お婆さまですよ」
とKさんがこともなげに言った。
「つまり、幽……霊?」
僕が半信半疑にそう呟くと、電話の向こうからKさんの小さな笑い声が聞こえた。
「そうなりますね。先日、ウエノさんが、曾お婆さまに会った記憶があると仰った時に、それを感じました」
「つまり、僕が会った曾祖母がすでにこの世の住人でない、ということをですか?」
「ええ」
そういえばあの時、Kさんの表情がそれまでと少しだけ変わったのを覚えている。

ほかにも伯母に聞いた話から、曾祖母について、もう少し知ることができた。曾祖母が、茨城の神職の家の出であったことだ。
そうなると、もうひとつのことに結びつく。この『書く歩く』の第1〜6回『命の恩人』のエピソードに登場する施術師の先生も、実は“見える人”で、「ウエノさんには、北関東の訛りのある方がついていて、その方が“コレ(僕のこと)は酒飲みだから、もう少し控えるように言ってくれ”と仰っています」と伝えられていたのだ。
その話をKさんにしたところ、
「曾お婆さまのことです」
と静かに断定した。
(つづく)