自費出版・流通出版・執筆のことなら文芸社へ

自費出版・流通出版は気軽にSite執筆・出版の応援ひろば
よむ人からかく人へ。ここは表現する人を応援する著者のための『ひろば』です。ご相談・お問い合わせは…「なんでも相談室」へ

執筆・創作・自費出版・流通出版のことなら【気軽にSite 執筆・出版の応援ひろば】トップへ > 書く歩く(第43回 『座右の銘−③』)

書く歩く(第43回 『座右の銘−③』)


第43回 『座右の銘−③』

『バガボンド』で、武蔵は、吉岡道場の70人すべてをほぼ斬り倒す。累々たる屍(というよりも、泥のような血と肉塊)の間を抜けて、彼は決闘の場をあとにする。
 吉川英治原作を1961年から東映時代劇の看板スターだった中村錦之助(後に萬屋錦之介)の成長に合わせ、ほぼ1年に1本のペースで制作された映画『宮本武蔵』全5部作(巨匠と言われた内田吐夢がすべて監督している)をテレビで観たことがある。
 第4部『宮本武蔵 一乗寺の決斗』(64年)では、この場が描かれている。錦之助武蔵が、「南無三、命あっての勝負」と念じたあと、下り松樹下の本陣に背後から奇襲をかけ、名目人である吉岡の親戚筋の子どもをまず仕留める。その後、二刀流で、斬って斬って斬りまくるが、無限に続く殺戮の中で、恐慌状態に陥りその場を逃走する。次の場面、赤いシダ植物の茂みに身を横たえる武蔵が映し出される。血しぶきなど抑え気味だった当時の時代劇にあって、この赤が鮮烈だった。

 さて、ふたたび『バガボンド』の「やらかくなるのは自信 固くなるのは気負い」に戻ろうと思う。
 僕にとっての「気負い」とはなんだったかというと、頭の中にある映像を100パーセントそのまま文字にして伝えようと「凝り固まって」ひたすら腐心していたことだろう。
 映画監督の伊丹十三が次のように語っている。
「映画というものは半分しか作ることができないわけですね。(中略)実はこれ、サルトルが小説についていってることなんですがね、つまり小説というものを作家は半分しか書くことはできないんだト。残り半分を完成することは読者の配慮にゆだねるしかない。」(文藝春秋『「お葬式」日記』より)
 半分は読者の想像力によって形作られるはずの小説世界なのに、僕はひたすら、自分のイメージばかり押し付けようと力み返っていたのだった。
「固さは気負い やらかさは自信」――今の僕は、それまで着込んでいた一張羅の重い外套を脱ぎ捨てることができた。
(『座右の銘』―おわり―)
←前回へ | 
次回へ→


上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



バックナンバー