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書く歩く(第44回 『黒部の太陽』を観る−①)


第44回 『黒部の太陽』を観る−①

 先頃、NHKBSで『黒部の太陽』がハイビジョン放送された。
 映画館で観てほしいという石原裕次郎の遺志により、いっさいソフト化されておらず、スクリーン上での一般公開もほとんど行われていないことから幻の大作となっていた。
 今回は特別編(196分のオリジナル版を140分に短縮したもの)だが、どういう経緯から長年封印されていたこの映画が放送されることになったのかは不明だ。
 初公開は1968年。その後、79年に一度だけテレビ放映された(これも短縮版)時のことは、父親が新聞を眺めながら、「今夜、『黒部の太陽』をやるんだ」と期待する声で言っていたのを覚えている。しかし、当時ハイティーンだった僕には、黒部ダム建設を描いた土木映画に関心はなかった。
 それから幾星霜、NHKの『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』でこの難工事を知り、資材運搬用のトンネル掘削の行く手を阻んだ“破砕帯(はさいたい)”なる言葉を覚えた。黒部にも旅行し、ダムの雄姿に感動していた身としては、今回の放送には諸手を挙げた。

 逼迫する電力事情を解消するため、関西電力は黒部川上流の秘境に黒部川第四発電所ダム(通称=黒四)の建設に着手する。
 調査登山を行った北川(三船敏郎)は、現場指揮を任命されるが、急峻な岸壁から無残に落下する作業員を目撃するなど、想像を絶する過酷な現場に直面し、辞退を考える。しかし、社長(滝沢修)の説得にあい、任を受ける意思を固める。
 黒四の現場指揮就任を逡巡する主人公の北川が覚悟を決めるのが、自らの人間ドラマにあるのではなく、社長に説得されてというのが、映画的ではない。しかも、この社長室での会話劇、というか説得劇を延々と見せられるのは、のっけから現代との語り口のテンポの違いを感じてしまう。
 豪華キャストと破格の制作費が注ぎ込まれたこの大作は、一方で、すべからく“社会派監督”熊井啓により、硬質なドキュメンタリータッチで運ばれてゆく。時にもっと盛り上げればいいのに、というくらい禁欲的でもある。
(つづく)


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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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