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書く歩く(第45回 『黒部の太陽』を観る−②)


第45回 『黒部の太陽』を観る−②

 石原裕次郎は、『黒部の太陽』に先駆け、石原プロモーションによる第1回作品として『太平洋ひとりぼっち』を製作している。ヨットで太平洋を単独横断した青年の手記を原作とするこの映画は、スターである自らが主演して担保を計ったにもかかわらず興行的に失敗している。
『太平洋ひとりぼっち』では、初めて(そして、これが最後でもある)市川崑監督と手を組んでいる。
 市川崑は、小難しい映画を撮る監督ではないが、それまで裕次郎がヒーローを演じ続けてきた日活アクションのプログラムピクチャーとは明らかに路線を異にする。こうした作家性のある監督を起用することで、裕次郎は自身と、自身の映画を既定路線から逸脱させようとしている。『黒部の太陽』の熊井啓監督起用もそうだろう。

『黒部の太陽』で三船敏郎とダブル主演した裕次郎の役所は、下請建設会社の社長の息子、剛。ゼネコンから黒四トンネル工事を受注した父(辰巳柳太郎が怪演している)を、剛は憎悪している。戦前の黒三工事で、父は作業員を非人道的に苦役させ、死なせていた。
 三船演じる北川が、黒部鉄道(現在の黒部峡谷鉄道)に揺られ、黒三ダムに向かう場面がある。ここで、かつて黒三工事を担当した老社員(宇野重吉)が、摂氏100度以上の高熱岩盤を掘削する現場の惨状を語る。発破を仕掛けようにも、高温で自然発火し、作業員300人以上の死者を出したこの工事は、戦力増強を名目とした帝國軍による災厄である。
 身体に冷水を浴びながら作業する灼熱の坑内で、辰巳柳太郎が鞭で脅して若い労務者に発破を仕掛けさせる場面は、まさに地獄絵だ。そうした所業を、剛は、カネ、名誉、妾のためと非難するが、トンネルを掘り抜くという妄執そのものに、この父親が支配されているだろうことは観客にも容易に理解できる。そういう意味ではこの男も、国家に虐げられた時代の犠牲者なのだ。
 トロッコ電車の愛称で親しまれる黒部峡谷鉄道は、ナローゲージを走る風光明媚な観光路線だが、かつてこのような苦役列車であったとは……
(つづく)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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