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書く歩く(第46回 『黒部の太陽』を観る−③)


第46回 『黒部の太陽』を観る−③

 三船敏郎演じる北川は、白血病で命旦夕(めいたんせき)に迫った次女(日色ともゑ)を案じながら、黒四トンネル工事の現場に立つ。北川の下で働く石原裕次郎の剛は、北川の長女(樫山文枝)と結婚する。こうした家族の形成の仕方は、いかにも昭和的だ。家庭と職場が非常に近くにあり、そして常に優先されるのは仕事だ。
 ちなみに、NHK朝の連ドラ『おはなはん』で一世を風靡した樫山文枝は、アパレルメーカー、オンワード樫山の創業者の姪。僕の妹がオンワードのOLだった頃に、この創業者が亡くなり、社葬に樫山夫妻(夫の綿引勝彦は、ついこの前まで流れていたダイハツのCMでブルース・ウィリスと共演してたオジサン)が参列していたと言ってた。

 黒四トンネル工事の水と土砂による崩落場面は、CG全盛の現代からすると、生の迫力はあるものの、あまりに繰り返されるのでいささか飽きてくる。それは、トンネル工事を延々と描く、この作品全体に漂う我慢強さ、しぶとさに通じて、昭和そのものでもある。
 やがて黒四トンネルは開通し、同時に北川は、次女死去の電報に接する。そして、相変わらず熊井啓監督はドキュメンタリーのように、開通式の次第を淡々と追う。

 数年前、僕が訪れた時、秋の黒部渓谷は、フルーツケーキの断面のようにカラフルに色づいていた。遊覧船ガルベ(黒部の語源となるアイヌ語に由来する船名とか)から眺める湾曲したアーチ式ダムは、城砦のようにそそり立っていた。レストハウスの入り口で、ペットボトルに汲んできた天然水を喉に流し込んだ。かつて黒四トンネル工事の行く手を阻んだ破砕帯から染み出した冷水である。僕は、ダム建造のためにこの秘境に立った人々を思い、遥かな気持ちになったものだ。
 少しばかり石原プロが大事にしすぎた印象は否めないが、『黒部の太陽』が労作であることは間違いない。大手映画会社が調印した五社協定(各社専属の俳優やスタッフの貸し出しを禁じた取り決め)の圧力をはね返し、三船・石原両独立プロが製作したその過程とともに、戦後日本の大工事を描いた昭和の記念碑といえよう。
(『黒部の太陽』を観る―おわり―)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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