書く歩く(第52回 寅さんの食卓−①)
第52回 寅さんの食卓−①

松竹映画『男はつらいよ』シリーズは、晩秋から冬にかけての物語と、夏場の話が交互に繰り返される。これは、正月と夏休み公開用に、年2本制作されていたため。
どの作品もパターンはだいたい決まっている。まず、車寅次郎が見る荒唐無稽な夢がアバンタイトルとして流れる。実は毎回のこの夢ネタ、あまり面白いと感じたことはない。だが、すぐにこの後、タレントとしてもユニークな個性を発揮した山本直純の手によるあの有名なテーマ曲に乗って、主人公が生まれ故郷の葛飾柴又に帰って来る場面に移ると、すっかり物語世界に浸っている自分がいる。
帝釈天の参道でとらやという団子屋を営むおいちゃん、おばちゃん、妹のさくら、さくらの亭主の博、博が勤める裏の印刷屋のタコ社長は、久々に顔を見せた寅さんを最初は歓待する。だが、そのあまりの我がまま振りに業を煮やしてケンカになる。おいちゃんがたまらず、「出ていけ!」と怒鳴り、「それを言っちゃあ、おしまいだよ」と捨て台詞を残し、寅さんは再びとらやを後にする。
気ままなテキヤ稼業で諸国を渡り歩くフーテンの寅は、旅の空でマドンナに出会う。そして、再び帰省した寅さんは、そのマドンナと柴又の地で再会する。

マドンナに恋心を抱く寅さん。マドンナのほうも寅さんを慕うが、それは恋ではない。フラれた寅さんは、引き止めるさくらを振り切って柴又を後にする。
旅先で、弁舌さわやかにテキ屋の口上を述べる寅さん。あたりは正月の活気に満ちている(夏休み映画ならば、そろそろ秋の気配が忍び寄っている)といった具合。
シリーズ第9作『男はつらいよ 柴又慕情』(’72年)でも、久し振りに柴又に帰ってきた寅さん。ところが、起居に使っていたとらやの2階が、さくら夫婦の家の新築資金のために貸間に出されている。怒った寅さんは、近所の不動産屋に行く。自分が住むための、賄い付きの下宿を探すためである。
そこで寅さんは、「オレくらい注文の少ない店子(たなこ)も、そうざらにはいない」と言って、自らの希望を並べ始める。
(つづく)