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書く歩く(第56回 独り仕事)


第56回 独り仕事

 いい齢をした男の言うことではないが、家で独りで仕事をしていて、ふと寂しさを感じることがある。
 自宅マンションの一室を仕事場にしている。窓が一つ。窓枠にアイビーのハンギングバスケットが掛かっている。寂しさを感じると、玄関からのそのそと廊下に出ていって、そのアイビーに霧吹きで水を噴霧したりする。それが済むと、再びすごすごと机の前に戻り、窓越しにアイビーの葉が風に揺れる様子を悄然と眺める。
 独りとは言っても、月のうち半分くらいは、妻が自宅にいる。料理学校で教えている彼女は、オフの過ごし方を心得ていて、居間で読書などしながら寛いでいる。彼女には、ふと寂しさを感じるなどといった様子は微塵もうかがえない。それがまた、僕の寂しさを増長させる。
 それで、ふらりと駅前の商店街に買い物に出かける。行く店は決まっている。まずは豆腐屋さん。ここで、豆乳を買う。毎朝1杯の豆乳を欠かさず飲むことで、今年の健康診断では中性脂肪とコレステロール値を下げるのに成功した。
 女性の店員さんは定期的に豆乳を買っていく僕を覚えている。それで、「いつもありがとうございます」と言う。それが、孤独な僕には妙に嬉しい。
 続いてコーヒー豆を買いに行く。ここもママさんとは顔馴染みである。「コーヒー飲みますか?」と、いつも1杯サービスしてくれる。これも心に沁みる。

 長年取りかかっていた小説が脱稿したお祝いに、依頼先の会社の人が食事に連れて行ってくれた。何軒か飲み歩き、翌朝は二日酔いだった。
 痛む頭で、ヤンキースがタイガースにスウィープされ、ポストシーズンを敗退する様子をテレビで眺めてから近所の整体に行った。
「この時期って、急に涼しくなって、心が弱くなるんですよね」と先生に言われた。
「そんなものでしょうか?」
「それで、そんなに飲み過ぎていないのに、二日酔いになったりすることがあるんですよ」
 二日酔いも寂しさの結晶だった?!
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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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