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書く歩く(第57回 手ぶらの男−①)


第57回 手ぶらの男−①

 もう10年近く経つ話なので恐縮なのだけれど、4年ぶりに専修大学で非常勤講師を務めるようになった時、控室に行って一番印象が違って感じられたのは黒いナイロンのビジネスバッグを持った先生が増えたということだった。大学の先生は革の鞄を持っている、というイメージがあったからだ。いや、以前に大学に通っていた頃は、確かに革鞄の比率が高かったのである。
 というわけで、大学の先生にも浸透したように、男性会社員に黒いナイロンビジネスバッグが一般化してから、かれこれ10年くらいが経つのではないか、というのが僕の印象なのだ。

 かつて一生もののつもりで、シュレジンジャーの牛革の鞄を買った。アメリカ映画『ワーキングガール』で、ビジネスのパートナーと認めた証にハリソン・フォードがメラニー・グリフィスに贈るのがこのブリーフケースだ。安いものではない。っていうか、かなり高かった。妻に頼み込んで買ってもらったのを覚えている。
 堅牢な中にエレガントさがあるような鞄で、使い込んでゆくにしたがって傷や手の脂の光沢が味になる。……それなのに使わなくなった。重いのである。

 また、ある雑誌の読者アンケートハガキにびっしりあれこれ書き込んで送ったら、ゼロハリバートンのアタッシェケースが送られてきた。月面着陸したアポロ11号が、月の石を持ち帰るのに使ったことで有名な、あのアルミのアタッシェケースである。
 嬉しくってしばらく使っていたけど、やはり重いし、アタッシェケースというのは電車の中で文庫本を取り出したりする時も、いちいち大きく開かなければならない。そんなわけで、僕もいつの間にか軽くて機能的なナイロンバッグを使うようになった。
 シュレジンジャーの革鞄を買った時、百貨店の鞄売り場の人に、雨の日に使うのは望ましくない、と言われ(思えば、面倒な鞄を選んだものである)、雨傘番組的に用意したのがナイロンバッグで。それがいつの間にかレギュラー化してしまったのだった。
(つづく)
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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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