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書く歩く(第58回 手ぶらの男−②)


第58回 手ぶらの男−②

 黒いナイロンビジネスバッグの話の続き。この種の鞄、けっして評判が悪いわけではなくて、「バッグのポケットに日経がクシャッと入ってる風情なんてイイ」という女性目線の感想を耳にしたこともある。
 使い捨て的な印象のあるナイロンバッグだが、それなりに愛着も生まれ、僕はメーカーに出し、あちこち修理しつつ使っていた。
 最近は、あまりスーツを着るようなことがなくなったので、ネクタイなしのジャケット姿にも合うトート型の黒いナイロンバッグをもっぱら愛用している。これだと、あまりくだけすぎておらず、気を使うような取材先でも問題ない。

 子どもの頃から学生時代を経て、これまでいろんな鞄を持ってきたけれど、実は大人の男はかつて手ぶらであったように思う。
 僕が幼い頃、家族で外出する時、手ぶらの父は、上着を着ない季節にはタバコを母のバッグに入れて持たせていた。
 テレビの刑事ドラマの『太陽にほえろ!』の刑事らは皆、手ぶらである。ついでに言うと、石原裕次郎のボスをはじめ、ほとんどのメンバーが歩きタバコをして、吸い殻を路上に捨てていた。これが『踊る大捜査線』になると、青島刑事はショルダーバッグを提げていて、(僕の記憶が確かなら)携帯灰皿を持っている。
 倉本聰のドラマ『前略おふくろ様』で、萩原健一(最近、30代の男性と話していて“ショーケン”と言っても分からずショックを受けた。ちなみに松田優作は知っていた)演じる主人公の板前サブは、尊敬する花板(梅宮辰夫)が朝刊だけを持って出勤する姿を見て実に粋だと感じる。
 粋だといえば、アメリカ映画『シャレード』で、ケーリー・グラントがズボンのポケットから小銭を出して、オードリー・ヘプバーンにアイスクリームを買ってあげるシーンは実にカッコいい。あれは、やっぱりポケットから小銭を出すのがいいのであって、小銭入れから出すのではいけない。
 やっぱり男は手ぶらなのだ。鞄も財布も持ってはいけないのだ。だからといって、ポケットからいきなりクレッジトカードを出すのでは信用されない、か。
(『手ぶらの男』―おわり―)
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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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