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書く歩く(第6回 命の恩人 ― ⑥)


第6回 命の恩人 ― ⑥

「ウエノさんは腸の検査を受けたほうがいいですよ」Kさんが真剣な面持ちで言った。僕のからだに触れたか触れないかくらいだったが、すぐさまなにか異常に気がついたらしい。
「ウエノさんがここにきたのは、腰のためではない。私にこのことを言わせるためです」
 ショックだった。というのも、先日受けた年に1度の健康診断の潜血便検査で〔要精密検査〕の診断を受けていたからだ。尾籠(びろう)な話だが、毎朝エアロバイクを30分こぐトレーニングをしているため、この検査結果について、どーせ痔だろうとうっちゃっておいたのだ。
「胃は……胃のほうはどうですか?」ふるえる声できいてみた。
 胃のほうも再検査になっていて、こちらのほうは、執筆アドバイスを担当したことのある病院長にメールで相談したところ、「ウエノさんの健啖ぶりなら大丈夫でしょう」とのコメントをもらっていた。ただし、心配なら胃カメラを飲むべしとの注釈付きではあったが。
「胃のほうは問題なさそうですね」Kさんが触診しながら言う。

 僕はお尻の穴からカメラを入れるという検査に対してげんなりしながらも、Kさんの断固たる口調に従うことにした。結果、なんと大腸のポリープから出血しているとの告知を受けたのである。下から入れたのだから、上からも入れてしまえというわけで、ついでに胃カメラも飲んだ。こちらのほうは、いわば個性的な胃袋の形状とのことで当面の異常は見つからなかった。ヘンクツな人間は胃のかたちまでヘンクツらしいと思いつつもほっとしている自分がいた。
 手術で切除したポリープは病理検査の結果、悪性で、このまま放置していればガンになっていたであろうとのことだった。
 僕はKさんにお礼の電話をした。「ウエノさんには、まだまだこれからしなければならないことが残されているということなんでしょうね。だから、私のところにきた。腰痛は、それを知らせるためだったんですよ」命の恩人が言った。
(『命の恩人』−おわり−)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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