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書く歩く(第61回 アプトの道と湖畔の犬−①)


第61回 アプトの道と湖畔の犬−①

 日帰りバスツアーで「アプトの道」のハイキングに妻と一緒に参加した。旧信越線の廃線跡を整備した遊歩道の散策である。
 観光バスが到着したのは、テーマパーク「碓氷峠鉄道文化むら」の駐車場。妙義山のごつごつした岩肌を背景に展示されているDD51電気機関車や、クリームと赤ツートンの国鉄特急色の189系電車の雄姿に心惹かれるが、今日の旅の目的は違う。このテーマパークのすぐ脇に見える「アプトの道起点」という看板から遊歩道に入り、歩き始める。バスツアーとはいえ、ここからは自由行動だ。
 送電線と線路の名残が続く山間の道をひたすら歩く。途中、中世の古城のようなレンガ造りの旧丸山変電所が現れ、西洋建築ファンであり、鉄道ファンであるウエノを悦ばせる。
 しかし、こうした実用目的の建築の細部に、明治の人たちはなぜ華麗な装飾を施すのだろう? でも、そのムダさがたまらなく好きだ。また、こうした凝った物件が山中にひっそりと佇んでいることが、限りなくロマンをかき立てる。

 道は上りが続き、歩いていて結構しんどい。この急勾配を列車に上らせるため、線路の2本のレールの中央に歯車でかみ合う軌条を取り付けた。これがアプト式鉄道で、この遊歩道の名前の由来である。
 霧積川橋梁と案内板のある橋を渡る。近くに霧積温泉がある。霧積温泉は、森村誠一氏の『人間の証明』の舞台である。この推理小説を原作とした角川映画は、「母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね ええ、夏、碓氷から霧積へ行くみちで 渓谷へ落としたあの麦藁帽子ですよ」という西条八十の詩をキャッチコピーにして宣伝キャンペーンを打ち、一大ムーブメントを巻き起こした。70〜80年代の角川映画は、デキのいいもの、かんばしくないもの、玉石混淆ではあるが、いずれも公開時、大量宣伝とともに巨大なイベントであり続けた。また、当時、死に体であった日本映画界のカンフル剤ともなった。
(つづく)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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