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書く歩く(第63回 キャッシュレジスターのサスペンス)


第63回 キャッシュレジスターのサスペンス

 昨年末のことだけれど、屠蘇(とそ)の肴にする馬刺しを持ってレジの列に並んだ。すると、先頭のオバちゃんが支払いにもたついていた。がまぐちをのぞき込んで、ああでもない、こうでもない思案している。
 あ、分かるナア。きっと小銭を使い切ってやろうとしているのだ。5エン玉と1エン玉4コで9エンなんて支払いができたら、なんか得したみたいで気分がイイもの。
 それにしても、時間がかかり過ぎである。なぜ、そんなにも熱心にがまぐちに指を入れて硬貨をガチャガチャやっているのか? ちょうどのおカネがなければ、ここはやはりお札で支払うしかないだろう。いや、待てよ。もしかしたら、使いたくないワケがあるのかもしれない。きっと、ピンときれいなお札しかなくて、それは孫へのお年玉(孫がいそうな年配に見えた)に使うのにとっておきたい考えなのかもしれなかった。
 とはいえ、もういいかげんあきらめないと、というタイムリミットに差しかかった頃、列の2番目にいた、これも孫がいそうな年配の男性から、「年末はみんな忙しいんだぞ」と嫌味を浴びた。それでも、オバちゃんは頑として探し当てた小銭のみで支払うという姿勢を通し抜いた。あっぱれである。こちらとしても、ココまで待った以上は初志貫徹してもらいたい。

 取り寄せてもらった仕事の資料にする本を書店に取りに行った。図書カードで支払おうとしたら、33エン足らなかった。領収書を頼み、ちょうどあった小銭をトレーに置こうとしたら、1エン玉が1コ、レジの向こうに転げ落ちてしまった。「スミマセン」と僕が声をかけると、店員さんは「ハイ」と返事した。しかし、それは領収書を書かせる手間についてだと思っているようだ。
 トレーの小銭を数える段になって、やはり1エン足らないと言われた。
 店員さんは1エン玉が落ちたのを見ていない。それを伝えると、探してくれた。僕はドキドキした。
 見つかった! よかった!! だって、せっかくちょうどの小銭があったんだもの。
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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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