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書く歩く(第65回 忠臣蔵‐②)


第65回 忠臣蔵‐②

 千代田城内で刃傷事件のあった松之廊下に向かう途中、脇坂淡路守(中村錦之介)は吉良上野介(月形龍之介)にぶつかられ、額の傷の血で裃の家紋を汚される。淡路守は、「無礼者!」と罵倒し、持っていた扇で上野介の額を打つ。上野介にいびり続けられていた親友、浅野内匠頭(大川橋蔵)への義侠心からの行動だが、大向こうは拍手喝采だ。
 討ち入りの場面で必ず登場する土屋主税(つちや・ちから)もいい役回りだ。本所にある吉良邸の隣に屋敷を構える旗本だが、塀越しに灯りを掲げて庭を照らし、「乗り越えて逃げて来る者があれば、投げ返せ!」と家来に命じて赤穂浪士を加勢する。
 1982年の大河ドラマ『峠の群像』では、内匠頭最期の姿を見送る小姓、片岡源五右衛門を20代の郷ひろみが演じて美しかった。その年の12月14日の義士祭に赤穂浪士が葬られている高輪の泉岳寺を参詣したら、源五右衛門の墓前に一際たくさんの供物があった。郷のファンが手向けたものだろう。

 名場面も数多くある。
 討ち入りの際、赤穂の四十七士は数チームに分かれ組織立った攻撃を展開するが、吉良方の防備に就いている小林平七(作品によっては小林平八郎、もしくは清水一学の場合もある)とだけは、池の上に架けられた橋の上で1対1のタイマン勝負に及ぶ。
 大佛次郎の『赤穂浪士』から、この場面を引用してみる。「平七は、再び身を挺(てい)して敵の正面に廻った。自分が防ぎ止めている間に、見方を奥へ退かせる魂胆(こんたん)と見えた。奥田孫太夫は、それまでの敵を急に捨てて、この心にくい勇士に向かうことにした。/平七は目をあげ、白刃を隔てて、孫太夫を見た。月がいろどっているその片頬に、ゆるい微笑が動いているのが見えた。/「奥田孫太夫重盛」/孫太夫は自分から名乗った。そうしないではいられないくらい、何かしら敬虔(けいけん)なものが、平七を囲む空気の中に漂っていたのである。/平七は笑って、/「小林平七」とひくい声で答えた。」(富士見書房時代小説文庫)
 惚れ惚れする名調子である。
(つづく)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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