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書く歩く(第67回 哀しみの朝)


第67回 哀しみの朝

 月曜日の朝、取材で雪が谷大塚に出かけて行った。自宅のある石神井公園駅から西武線に乗って、JR池袋駅まで出る。山手線を使って、池袋とほぼ真逆にある五反田駅を目指し、そこから東急池上線に乗り換えるという行程で、同じ23区内ながらかなり遠出である。
 取材先の工場の前で、集合時間は8時半。初めて行く場所なので、時間の余裕を見て、6時半に家を出た。僕は生来グズなので、出かけるまでに2時間かかってしまう。だから、4時半に目覚ましをかけて起きた。どんな時でもしっかり朝食はとるので、前夜の残りのアクアパッツアを温め、予約炊飯したご飯を食べた。まあ、こういうことをしているから、出かけるまでに時間がかかるわけだ。

 取材先の工場には迷うことなく着いた。でも、集合時間まで間があるので、寒い住宅街をうろうろ歩く。さて、時間になり、再び工場の前に戻ったが、どういうわけか、原稿の依頼を受けている会社の取材に同行する二人の女性がやってこない。一人のケイタイに電話を入れたら、出ないので、もう一人に電話した。やはり出ないので、切ったら、すぐに相手から着信があった。そうして、その時には分かっていた。僕はケイタイの待ち受け画面の日付を見て、衝撃を受けていた。
「あ、取材、来週だったんだね」僕は、かかってきた電話に対して虚ろにそう言っていた。「もしかしたら……」相手の女性の声が申し訳なさそうなものになった。そして、「スミマセン」となぜか謝った。「きみが謝る必要ないよ。僕が勝手に間違ったんだから」
 続いて、もう一人からもかかってきた。やはり、「スミマセン」と謝られた。二人からの同情のこもった、「スミマセン」がひどくイタかった。
 僕は再び電車に乗って、今朝来た行程を引き返した。
 家の近所まで戻ってきた僕は、なぜか急に空腹を覚えた。それで、コンビニで肉まんを買った。家の鍵を開け、リビングで肉まんを頬張った。その日の朝は、どこまでもどこまでも悲しかった。こんなに寂しく、哀しかったことはないかもしれないというくらい哀しかった。
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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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