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書く歩く(第8回 影絵への拍手 ― ②)


第8回 影絵への拍手 ― ②

 高校のころ、映画と本、タバコ代にあてる小遣いが足りず、昼ご飯をメロンパン1個にしたり、時には食べないで捻出した。級友らと昼飯をともにするより、映画を観た帰りに、夕暮れの荒川土手をひとりでタバコをふかしながら歩いているほうがよかった。
 そうやってよく通った映画館に、飯田橋の佳作座やギンレイホールがある。高校が竹橋にあったので、電車賃を節約して飯田橋までは歩いた。当時、飯田橋駅前は大きな堀で、河岸(かし)にはゆかしい材木商が建ち情緒があった。江戸城の外濠(そとぼり)の名残である。橋を渡っていくと水面にコサギが白い姿を映していたりした。
 東京駅前の八重洲スター座にもよく行った。もっぱら近辺にある一流企業の重役らが暇つぶしに映画を眺めにきている、なんとも客層のいい名画座だった。ところが、ある日のこの館内は、男性整髪料のにおいがただようふだんとは趣を異にしていた。異様な風体の若い男女で満員である。
「あんた、ここ空いたわよ」と、革の超ミニスカートにネットストッキングのお姉さんが、学生服の僕に席をゆずってくれた。彼女は2本立ての片方であるメル・ブルックスのコメディ『ヤング・フランケンシュタイン』を見ずに帰るらしい。僕はこっちがお目当てで来たのに。
 ほかにも、ぞろぞろ外に出てゆく客らがいる。「どういうわけだろう?」と考えていたけれど、ジーン・ワイルダーやマーティ・フェルドマンの怪演に見とれているうちに忘れてしまった。
 そうして、もう1本が始まるころ、館内はふたたび異形の若い男女で満ちてくる。
 映画が始まって、度胆を抜かれた。客が総立ちになり、スクリーンのなかで歌い踊るシーンに合わせ高々と上げた手を狂ったように打ち鳴らしはじめたからだ。
 ロック・ミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』が観客参加型のカルトムービーであることを知ったのは、それからずっとたってから読んだ映画雑誌の記事によってだった。
(つづく)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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