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書く歩く(第9回 影絵への拍手 ― ③)


第9回 影絵への拍手 ― ③

『ロッキー・ホラー・ショー』のように観客参加型というわけではないけれど、映画館内に拍手が鳴り渡ったことがある。
 東京の下町・墨田区の八広(やひろ)というところで生まれて育ったのだが、荒川を越えた葛飾区の青砥(あおと)駅前に京成名画座があった。二番館にもかかわらず『男はつらいよ』の新作だけは封切りで上映される。“フーテンの寅”こと車寅次郎の故郷・柴又に近い映画館だからだ。ここで“寅さんシリーズ”を観ると、スクリーンに松竹の富士山マークが映し出され、あのテーマ曲のイントロが流れたとたん客席からは待ってましたとばかりに拍手が起きたものだ。さすがお膝元である。
 有楽町マリオンにある映画館で、大阪を舞台にした米映画『ブラック・レイン』をロードショーの初日に観に行った時には、出演者がクレジットされるたびに拍手がわき、〔KEN TAKAKURA〕と出たら「健サーン!」という掛け声まで上がった。そして、公開を目前に急逝した、これが遺作となった松田優作の名前が映し出されるとひときわ大きな拍手が鳴り響いた。あの拍手は、京橋にあったテアトル東京でシネラマ上映された『スター・ウォーズ』の初公開時、ダース・ヴェイダーが登場したシーンより大きかった。
 銀座の東劇で『ロッキー』を観た時もすごかった。クライマックスの世界ヘビー級タイトルマッチで、ロッキーが無造作に放ったパンチがチャンピオンにカウンター気味に入り、最初のダウンを奪うと、にわかに拍手と歓声が巻き起こったのだ。すべての観客が映画であることを忘れていた。その瞬間、我々はまぎれもなくフィラデルフィアのアリーナにいた。そして一心に歓声を送っていたのだ。それがスクリーンに映し出された影絵であることも忘れて。
 時は過ぎゆく――。タバコは30歳でやめた。がりがりにやせていた高校生の僕は、いまやダイエットのためにエアロバイクをこぐ毎日である。そして、昼飯代を削ってまで通っていた映画館からもすっかり足が遠のいてしまった。
(『影絵への拍手』―おわり―)

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上野 歩(うえの・あゆむ)

1962年東京生まれ。作家。『恋人といっしょになるでしょう』(集英社)で小説すばる新人賞受賞。文芸社にて執筆アドバイザーを務める。新感覚サイコミステリー『鳴物師 音無ゆかり 事件ファイル』を文芸社より刊行。
公式HP《上野亭かきあげ丼》
http://www.uenotei.com



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