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書いた人のわ(『夏日夢』 澤樹夏子)

『夏日夢』 澤樹夏子
 つい数年前まで、私はそれはそれはイヤな中年女でした。いつも不機嫌で、常に何かが不満で、苛々と日々を過ごしていました。

 人生の半ば以上が過ぎ、今まで生きた長さだけこれから先は生きられないという焦り。時間だけが加速度を増し、束になって私の上を通り過ぎていく恐怖。ジリジリと灼けるような焦燥感の中で、このままひたすら年齢だけを重ねて行くという心細さ。私は摩耗していくばかりの自分を感じ、この現実から逃げるため何かをしなければいけないと、駆り立てられるように小説を書き出しました。

 煩わしい日常からかけ離れたもう一つの世界を手に入れた私は、そこでだけ心穏やかに満たされ、そこでだけ明朗快活でした。
 
 ある日、私は「原稿募集」という文字をみつけ、たいして深い思いもなく書き溜めた原稿を郵送しました。自分のお楽しみだけで書き散らしたものを、プロの目はどう読むだろうかという興味だけでの行動でした。しかし数日後、手元に届いた講評はとても真摯で丁寧で、遊び半分だった私としては姿勢を正されるような内容でした。

 人は皆、様々なコンプレックスを持って生きています。「私なんて」「私ごときが」という思いを、人は一生のうちで一体何万回味わうものなのでしょうか。冒頭でも述べましたように、既に人生の半ば以上を生きてしまった私は、もう若くもなく、ましてや年端もいかない小娘などではあるはずもなく、未熟者ではあっても、それなりに人生の荒波というヤツを適度にかいくぐって来ております。そんな状況にいる私は「私なんて」「私ごときが」から解放され、せめて「もう照れるのはやめよう」ぐらい思ってもいいのではないでしょうか。

 人生の終点がぼんやりとではあっても、視界の彼方に見え隠れし始めた今、「私なんて」「私ごときが」などと躊躇している時間はないのです。手持ちの時間が限られている今、照れてる場合ではないと自分を奮い立たせ、本の出版という結果につなげる事ができました。

 書店に並んだ私の本は、イメージ通りのクールな装丁に仕上がり、勝手な感想ながら一際美しくその存在を主張しているように見えました。やり遂げたという達成感が見事に私を満たし、大袈裟ですが私という人間が確かに生きた証を刻みつけたような気分でした。

「もう照れるのはやめよう」この小さな勇気から得た大きな結果は、達成感という人生において最高に贅沢な感覚を教えてくれました。因みに私はもう、過ぎていく時間の流れに怯える事もなく、不機嫌な中年女でもなくなりました。(了)

澤樹夏子(さわきなつこ)
東京都出身。湘南在住。

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夏嵐
川瀬葉子は四十歳の女ざかり。拓郎という夫がいながら、大学時代の友人、美香子の夫である健吾と不倫関係にある。ふたりの子供は同じ小学校に通い、同級生という間柄。葉子と健吾は互いに家庭を壊さないよう気遣い、それは成功していた。しかし、不倫旅行で行った南の島に台風が近づいたことで事態は一変する。不倫という名の完全犯罪を、夏の嵐に狂わせられた男と女の運命を描いた、大人のための恋愛小説。

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