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執筆虎の巻(小説篇/第二回 『会話シーンを描くときの心得とは?』)

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「きずな」
ペンネーム  曾場 柿
(脳梗塞で倒れた後、十年近く寝たきりだった加寿子が亡くなった。その四十九日の法要を済ませた子供たちの会話)

 真新しい塗位牌が仏壇に収められ、遺影はしかるべきところに飾られた。参列者の最後を見送った昭一が戻ってくるのを待ちかねたように、口火を切ったのは耕二だった。
「みんな揃ったところで本題に入ろう。単刀直入に訊くが、俺達はいくらずつもらえるんだ?」
「またお前はそんな……」
「忌は明けたんだ。早すぎるということはないだろう」
「月曜からまた仕事だし、明日中に帰らなきゃならないから、俺としても早く話が終わったほうが助かるよ」
「雄三の言うとおりよ、私だって今日はパートを交代してもらって来てるのよ。どうせ片づけなきゃならない事だから、早く済ませましょ」
「今日はおふくろのために来たんじゃなかったのか」
「兄さん! なんてこと言うのよ、相続税の申告は十か月以内にしないといけないの。一日動くのが遅くなれば残された日数はそれだけ少なくなるんだから」
「そんなにもらえると思ってるのか?」
「それどういう意味? 嫁いだとはいえ、父さん母さんが残したものなんだから、ねぇ初子姉さん」
 初子が頷いた。昭一はうんざりした調子で話し始めた。
「前にも説明したように遺言状は無い。おふくろは認知症もあったし、まともに話ができる状態じゃなかったことはお前たちも認めるだろう?」
「だから相続人同士で話し合ってるんじゃないか」
「子供は平等よ」
「しかし寝たきりになったおふくろの面倒を一番よく見たのは俺だ。それも認めるだろう?」
「でも最初の半年はうちだったし、その後の一年は雄三兄さん、幸子も二年半だったかな」「私のところは受験生がいたし、主人だって単身赴任していたもの。でも介護ベッドを贈ったわよ。ずいぶんしたんだから、あれ」
「それを言うなら、ヘルパーの料金は俺も援助したさ」
「もういい、結論は出てる。この土地屋敷を兄さんが相続するのは別に構わない、それに見合っただけを俺達がもらえるのならね」
「だから、そのためには」
……以下略

 亡くなった母親の遺産相続で、兄弟姉妹がそれぞれの取り分を巡って主張し合っている場面じゃな。よくありそうなシーンじゃがしかし、傍目にもあまり気持ちのいいものではないのう。法要が終わるやいなやというのも忙しないが、まあそれぞれに事情があるようじゃし、兄弟が一堂に会する機会もなかなかないのじゃろうしな。それはさておき、一人ひとりの言い分は何やらそれらしくもっともでリアルに感じられるし、彼らの丁々発止の遣り合いからは感情の高ぶりも伝わって臨場感豊かに描かれているといえるじゃろう。
 ただ、もう気がついておると思うが、この場面の書き方には決定的な欠陥がある。それは、それぞれの台詞が誰のものかがわかりにくいということじゃ。比較的容易に察しがつくのは長男らしい昭一の台詞じゃが、それ以外は台詞を分析してよく考えんとわからん作りじゃ。実際にいくら考えても誰の台詞かわからないものも含まれておる。しかもそれだけでなく兄弟姉妹がいったい何人いるのかもよくわからん。何人かの名前は挙がっておるが、それで全部とも限らないじゃろう。雰囲気は出ているのじゃが、やりとりの具体的な状況が掴めないのじゃ。
 この場面のように、3人以上の人物が会話を交わす際、特に台詞の中に前後のストーリーに関わってくる要素があるとすれば、誰の言い分かははっきりさせておく必要がある。そのための最低限の状況説明となる文章は添えるべきじゃろう。作者の頭の中では、誰の台詞なのかイメージがあって書いているのかもしれんが、それはやはり説明しなくては読者には伝わらんのじゃ。
 ただ、ここで注意したいのは、「○○が言った」のような説明を逐一すべての台詞に付けると、今度は逆にくどく感じられて文章のテンポも悪くなるということじゃ。省略しても読者にわかると思われる部分は省くということも意識しながら、会話シーンを組み立てていくといいじゃろう。単に誰が言ったという事実だけでなく、この作品中にもある「昭一はうんざりした調子で」のように、表情や心理を窺わせる描写を入れてその場の空気を伝えるのも効果的じゃ。いずれにしても、会話の内容ばかりでなく、その場面の状況が読者の目にどう映るかを意識しながら書いていくことが大切なんじゃ。
 それにしても、子どもたちが奪い合うほどの財産などないワシは、死んだ後のことまで心配せんでもいい分、幸せかもしれんのう。

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