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執筆虎の巻(小説篇/第四回 『臨場感のある場面を描くポイントとは?』)

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「沙翁殺人事件」
ペンネーム  衛藤 樹里
 康子の演劇部の練習に付き合わされてすっかり遅くなってしまった。10月に入って日も短くなり、学校を出ると外はすでにかなり暗くなっていた。
 石上先生が死んで一週間が経つ。先生が自殺などするはずがないと康子が言ったとおり、警察は他殺と断定して捜査を進めているようだ。「几帳面な芸術家」として尊敬していた先生の死は、康子にとってかなりショックだったようだが、気丈な彼女は立ち直りも早い。顧問を失った演劇部も今日から活動を再開したのだ。
 それにしても死の直前、康子に送られてきたという先生からのメールは何を意味しているのだろう。「イアーゴー」という件名のみの空メール。康子が着信に気づいたのは翌朝だったというが、送信されたのは死亡推定時刻の1時間ほど前。康子はその日、学校で直接先生にわけを訊こうとしたというが、当人はすでにこの世にいなかった。事件と何か関係があるのかしら。それにしても意味不明。あるいは送り先を間違えたとか――。
「あの、ちょっと」
 突然声を掛けられて私の思考は中断された。振り向くと見知らぬ男が立っている。
「君、色葉学園高校の生徒だよね?」
「そうですけど、何か」
「日向さんって子は知ってるかな?」
「日向康子ですか?」
 この人、康子の知り合い?
「いや、日向朱美さんなんだけど」
 そういえば日向はもう一人いた。日向朱美はこの2年間、同じクラスだが、親しくはない。彼女はクラスでも孤立した存在なのだ。といっても周囲からつまはじきにされているわけではない。むしろ、近づき難い雰囲気の彼女のほうがみんなを無視しているというほうが正しい。美形だけれど男の子たちも手を出しづらい、孤高の女王といったところだ。とはいえ成績優秀で品行方正、ちょっと扱いづらい性格を除けば、先生たちにとっては最も手の掛からない生徒だろう。
「彼女なら、同じクラスです」
「そうか、それはちょうどよかった。彼女、最近何か変わったことはなかったかな」
「いえ、特に変わったことは・・・」
 いつもポーカーフェイスの彼女に変化を見出すのは難しい。
「ただ、確か先週の火曜日、学校を休みましたが」
 私の知る限りこれまで無遅刻無欠席の朱美が学校を休むのは、やはり珍しいことだった。
「えっ?! 先週の火曜、学校に行ってない?」
 男はちょっと考え込んだようだったが、そうか、ありがとう、と言うなり、その場を立ち去った。男が誰なのか尋ねる間もなかった。朱美の身に何が起こっているのだろう。そういえば、彼女が休んだのは、先生の事件があった日だ。何か関係があるのだろうか。それに、もう一つ変わったことがあったのを思い出した。その前日、珍しく朱美のほうから私に話しかけてきたのだ。彼女はなんで私にあんなことを聞いたのだろう。

 今回は学園ミステリーのようじゃな。主人公の「私」は女子高校生、なんと親しい先生が殺されてしまったようじゃ。物騒な世の中じゃからのう。さて、物語としては事件が起こってまもなく、まだ導入部分という段階じゃ。親友に届いた意味不明のメールに、同級生に関わる謎も加わって、興味を引く導入部となっておる。学校帰りの道すがらの主人公の思考とちょっとした出来事を通して事情もそつなく説明され、周囲の人物の性格もそれとなく窺わせて、この辺りはなかなか手際よく書けているんじゃなかろうか。
 じゃが、それでもちょっと物足りないところがある。それは、「見知らぬ男」に遭遇した場面において臨場感が不足しておるということじゃ。人は初対面の場合、まず相手を観察し、なんらかの印象を抱くものじゃろう。その記述がこの作品に欠けておるんじゃ。短いやりとりの間に、関係する同級生についての説明は上手くされているものの、目の前で起こっていることの説明が不足しているということじゃ。
 そもそも、「男」は何歳ぐらいじゃったのか、主人公と同じ高校生ぐらい、または青年といえる年代、あるいは中年男性だったのじゃろうか。また、どのような身なり、物腰だったかも、人物を印象付ける意味では重要じゃろう。見るからに怪しげな風体だったか、あるいはいかにもまともな人の印象であったか。話の成り行きから考えても、この男は物語に再度登場してくるんじゃなかろうか。であれば、「男」の特徴をしっかり書き込んで読者に印象付けておく方が親切じゃろうし、何よりも、読者の想像力を膨らませて、登場人物が生き生きとしてくるというものじゃ。
 それともう一つ気になるのは、この出来事がどこで起こったかということじゃ。「私」が学校から帰宅途中の出来事じゃが、冒頭にあるようにもう日が暮れた時間、女子高校生が一人で歩くにはそれこそ物騒な時間帯ではなかろうか。男に声を掛けられたのは、人通りの多い商店街のような場所であったか、あるいは人影もまばらな住宅街の路地であったか。それによって、緊張感も変わってくるじゃろう。情景描写が加わることで、よりリアルな場面として読者にイメージさせることができるはずじゃ。
 前回は主に心理描写の話をしたが、今回は主人公の目に見えているものの描写も大切じゃという話。人物や情景の描写を上手く使うことで、物語世界は立体的になってくるのじゃ。しかし、この話の続きは気になるのう。石上先生がメールを送ろうとしたのは、実は朱美のほうではなかったかとワシは睨んでいるんじゃが。

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